[シェア0.01%の謎]医療搬送ロボットHOSPIの功罪② 早すぎた天才〜北野幸彦

ロボティア編集部2021年12月21日(火曜日)

2021年のパナソニックのモビリティ市場シェア率の前に、HOSPIの誕生と20年余にわたるその歴史のおさらいをしておこう。
(文中敬称略)

全ては一人の天才から始まった
1997年の暮れ、松下電工の生産技術エンジニアであった北野幸彦は悩んでいた。大企業のエンジニアとして生活は安定していた。充電工具の開発というミッションにも不満があるわけではない。しかし入社後16年が経過し、心の中で何か渦巻くものがある。もっと別の生き方があると感じる。当時の北野の言葉を借りるなら「やらされ感」ゼロの生き方があるはずだ、と。

北野は考える。ものごとは栄枯盛衰、生まれては死にの繰り返しで前進している。あたらしい「起業」がなければ、衰弱の方法に沈んでいく。だったら「起業」は活発なほうがよい。翌年、北野はついに起業する事を決意する。ただの起業ではなく松下電工内の企業内起業。今でいう社内ベンチャーである。

当時の松下電工にそのような制度があったわけではない。すべて北野が考え上司を説得したのだという。弊誌の取材に応じて北野は語った。「やりたいんです、としつこく食い下がりましたね。じゃあやってみろと。まずは工場の研究室の設備を使って、できる事からやってみろと。じゃあやります、といって始まりました。」

いきなり「企業内起業をやりたい」と言い出す北野に対して「じゃあやってみろ」という上司。当時のパナソニックには、今よりも新しいものを生み出す土壌と、パワーがあったのかもしれない。起業すること決めた北野は、こんどは「起業して何をするのか」を考え始めた。北野の頭には「ロボットによる社会課題の解決」というイメージがあった。しかしどのような問題を解決するのか。北野の思考は進む。

(1)カレル・チャペックによるとロボットは「人工的な労働者」を意味する。
(2)退屈な仕事・きつい仕事を人に代わって行うのがロボットである。
(3)つまり「労働」に着目すればロボットの未来が見えて来る。
(4)一方、工場では産業用ロボットが普及したが、人目に触れる所で働くロボットを見た事がない。
(5)事業を創造する以上、一発もののアイデア商品で終わるものであってはいけない。
(6)研究開発成果が商品と事業を産み出し、それが1000億円を超すような骨太の産業に育ってほしい。
(7)マーケットは医療・福祉の領域にあるはずだが、ニーズを絞り込まなければ商品は作れない。
(8)看護師は、過労から精神的に追い詰められ、バーンアウト、離職する看護師が非常に多い。
(9)看護師に腹を割って話してもらうことで本音の本音のニーズが絞り込めるはず。
(10)その結果、薬剤・検体の搬送業務がナースたちにとって大きなストレスとなっている事がわかった。

以下のような極めて論理的な考察を経て、北野は医療用搬送ロボット事業をやる事を決意する。

[次回予告]
医療搬送ロボットHOSPIの功罪③ 白衣の天使の実態