リニアからアルゴリズムの世界へ...グレイオレンジがしかける倉庫業務の変革

ロボティア編集部2019年1月23日(水曜日)

各国国内および越境ECの発展は、物流の拠点となる倉庫業務の変革をも強く求めはじめている。近年、その変革の担い手として注目を集めているのが「倉庫用ロボットシステム」だ。ロボットやAIを取り入れた倉庫業務の自動化・効率化を実現する上で、各企業が直面している悩みとは。今回、インド発の倉庫用ロボットシステムメーカー・グレイオレンジ(GreyOrange)で、アジア太平洋・日本CEOを務めるナリン・アドバニ氏に、業界の最先端事情を伺った。

なお、グレイオレンジの「バトラーシステム」は、バトラー(搬送ロボット)、リニア・ソーター(高速包装ロボット)、ピックパル(ピッキングロボット)など各種ロボットと、それらの稼働を最適化するAIソフトウェア「グレイマター」からなる倉庫業務に特化した自動化ソリューションだ。日本では、ニトリの物流子会社が同システムを採用したことでも話題となった。同社はシンガポールに本拠点を構え、日本やアジア、米国などへの進出に拍車をかけている。

※「」内コメント=アドバニ氏
※太字コメント=インタビュアー

-各企業が置かれているビジネス環境が複雑さを増すなか、バックエンド業務を自動化する倉庫用ロボットシステムへの期待が高まっています。現場からは、どのような意見があるのでしょうか。バトラーシステムに対する各社の反応からまず、率直にお伺いしたいです。

「良い反応と悪い反応がありますが、まず悪い反応からお話しいたしましょう。なかでも特徴的なのが『アルゴリズムへの不信感』です。弊社の倉庫用ロボットは、500台から数千台まで同時に稼働させることができます。そこでロボット同士、また人間とロボットの協働を支えるのがAIソフトウェア『グレイマター』です。もともと弊社はロボットというよりも、ソフトウェア開発に注力してきた企業でありますが、そのグレイマターはディープラーニングなど、最新のAI技術を使ったアルゴリズムで形成されています。アルゴリズムは、周囲の環境の変化やデータを学習することで賢くなっていきます。一方で、そのデータ処理が複雑なため、人間には判断過程が理解できない状況が生まれます。いわゆる、ブラックボックス化です。従来のロボットは、人間から与えられた固定インプットを固定アウトプットの形で出力することで作業を代替してきました。つまり、『リニア的』に稼働してきたのです。一方で、アルゴリズムは、周囲の事柄の変化に対応するので、人間が想定している結果通りになるとは限りません。従来のオートメーションを想定している皆様は、そこで疑問符が生まれると。私どもとしては、良いアルゴリズムを書きロボットに最適な動きをさせられていると信じていますが、自動化に対する認識の差が確かに存在していると感じています」

-「なぜだか理解はできないが精度が出るシステム」に対して、不安を感じて導入できないという企業の反応があるということですね。反対に良い反応というのは?

「端的に言うと、作業効率が跳ね上がったという評価をいただいています。日本のニトリ社にも導入いただいていますが、420%の効率化を達成できたと。ですので、良い反応は結果がしっかり出ているという点。悪い反応は、ブラックボックスがあるから気になさる方も多いということに要約することができると思います」

-リニアとアルゴリズムというキーワードは、旧来の自動化と新しい自動化を隔てるラインになるような気がします。そちらはまた詳しくお聞きするとして、まず今後、流通や小売(リテール)の現場においても、何かしらの自動化を進めることが企業の競争力の源泉だとアドバニ氏自身はお考えですか。

「さまざまな統計がありますが、世界的にみるとオフラインのリテールはマイナス成長、オンラインのリテールは大幅な成長勢にあります。日本のオンラインリテールの成長率は6%ほどだと聞いていますし、中国は10数%、韓国は9%ですねかね。ただコンバージョン率では中国が13~15%、韓国が16%ぐらい。つまり、オンラインのリテールの重要性が増しています。eBayも日本にカムバックすると聞いています。一方で、そのような世の中になったとき『物流や流通はついていけるのか』というのが弊社の問いであると同時に、ビジネスチャンスであると実感しています」

-その「ついていけるの?」の部分をもう少し詳しくお聞かせください。

「例え話をしましょう。みなさんも、オンラインでショッピングされると思いますが、ネットで気に入った靴を見つたと考えてください。サイズが気になるので、自分のサイズ+0.5、-0.5のサイズをそれぞれ注文しました。色もブルー・黒・茶色と三色。そうなると、リテールの専門用語ではSKU(ストック・キーピング・ユニット=受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位)が9つ生じることになります。倉庫から、9つのSKUが出荷されます。ユーザーはその9つのSKUのうち、気に入った1足をキープして残りを返却します。すると、ひとつの商談が成立するまでに9つ届き、8つ戻るので、合計でSKUが17回動くことになります。しかし、この商品の配送や管理はタダじゃありません。企業が従来通りのやり方でコストを負担し続ける限り競争力を確保できませんし、ビジネスをスケーリングすることも不可能です」