ロボットが外科手術...カナダ・オンタリオ州の最先端医療現場

ロボティア編集部2016年7月19日(火曜日)

 カナダ・オンタリオ州では、今、高度な産業用ロボットの研究開発が活発に行われています。ロボットの導入分野のすそ野は幅広く、「インダストリー4.0」に代表される製造のデジタル化を支えるロボット、ヒトと安全に協調作業ができるロボット、倉庫用ロボット、ヒト細胞の採取などミクロレベルの精密さで作業できるロボットなど様々です。

 ロボットの研究開発・実用化には、要素技術やシステム技術など、幅広い技術を連携させることが必要であり、通常は企業・組織のパートナーシップなくしては難しいのが現状です。

 こうした革新的なロボット技術が生まれる背景には、産官学連携による研究や商業化の支援体制があります。オンタリオ州では、関連企業・大学・研究機関・ベンチャー企業・ベンチャーキャピタルなど、多彩な得意分野を持った幅広いプレーヤーが存在しており、産学官連携によるイノベーションの創造、実用化の取り組みなどが盛んです。

 産学連携の例では、ロボティクスや機械工学などロボット関連のコースが38の総合大学・カレッジで提供されています。大学では、学生が在学中に企業において有償で働く「Co-op(コープ)」という実務研修制度があり、単位として認定されています。

 研修期間は4か月から1年以上の場合もあります。学生は研修中に実践的な知識や経験を研究にフィードバックすることができますし、また、企業側にとっても、若い優秀な学生の頭脳を安価で雇うことができるメリットがあります。実際、Google やApple など大手グローバル企業がこうした実務研修制度を利用しています。さらには、MaRS Discovery District Communitechといったインキュベーターやアクセラレーター機関が、スタートアップ企業のアイディアを実用化へとつなげるための様々な支援を行っている点も特徴です。

robohub
カナダ屈指の理系大学 「ウォータールー大学」 では、RoboHubと呼ばれる、最先端のロボット開発施設の準備が進んでおり、連邦政府からの150万カナダドルの資金援助も決まっています。ヒューマノイド・空中・地上・磁気浮上(magnetic levitation)など様々な分野の最先端ロボットの研究者が集まり、分野横断的な技術コラボレーションによるイノベーションの活性化や、ラボの研究成果と実用化の間にあるギャップを埋める役割などが期待されています。

ロボットによる手術が「ニューノーマル(新常態)」に

 外科手術におけるロボット工学の利用は急速に伸びています。オンタリオ州ロンドン健康科学センターの「カナダ外科手術技術・先端ロボット工学」(Canadian Surgical Technologies & Advanced Robotics at London Health Sciences Centre)部門によると、過去10年間にカナダで、ロボットを利用して行われた手術件数が100倍に増えたという報告結果があります。

 手術ロボットの中核技術の1つとして知られるのが、MDA社(MDACorporation)が開発したカナダアーム(Canadarm)です。1981年創立のMDA社は、宇宙飛行士には行うことができない複雑な機械的作業を宇宙空間でこなすことができるロボット部品・機器に、3次元視覚化技術とプログラミングを組み合わせたシステムを開発しました。

 ロボット工学の医学への利用に取り組んでいるのは、宇宙時代の技術を外科手術に応用できるような大企業ばかりではありません。トロント市にある新興企業のシナプティブ・メディカル社(Synaptive Medical)は、脳疾患の発見・診断・治療に際し、定期検査する神経外科技術を開発しており、ロボット外科手術関連の企業の中では群を抜いています。同社の集積光学イメージングおよびロボット・オートメーション・システムの技術を使うと、神経外科医は脳周辺の組織に与える外傷を最小限に抑えながら、人の脳の中をより正確に調べることが可能になります。