データ収集の枠組みが肝 AI研究者に聞く「日本の畜産・酪農業とAI 」最前線

ロボティア編集部2019年9月3日(火曜日)

大和田氏が言う“内”というのは、体内のことを指す。今回のプロジェクトにはスウェーデン発の搾乳ロボットの世界的大手メーカー・デラバルも協力しているが、同社は高度な「生乳分析」の技術を保有している。乳成分からは、黄体ホルモン、乳酸脱水素酵素(LDH)、β-ヒドロキシ酪酸(BHB)などを解析することができ、その結果から、乳牛の「栄養が足りているか」「発情の時期はいつか」「乳房炎になっていないか」などを把握できるという。

「日本を含むグローバル市場では、デラバル社やレリー社製の搾乳ロボットがシェアの大半占めています。なかでも、デラバル社製の搾乳機は全自動で非常に優れた製品。レーザーで乳牛の乳房の位置を特定して自動で装着されます。牛も慣れるとロボットの柵のなかに自分から入っていくようになる。搾乳の際の個体のデータ管理もしっかりできるので、このプロジェクトではそのデータを有効活用しようと考えています」

一方で、大和田氏らは“外”からのデータを取得・解析するソリューションを開発している。こちらには、可視光およびサーモグラフィカメラや、牛に直接装着するウェアラブル端末などが含まれる。

「外からのデータ取得は、牛の体温や動き、体型などから個体の状況を把握することが目的です。いわゆる、ボディコンディションスコアの算出ですね。最終的に、牛の体外・体内のデータを包括的に取得・解析する仕組みを作りあげつつ、農場の大きさや頭数など、各現場の条件によってカスタマイズしたり、組み合わせたりして提供できるようにしていきたいと考えています」

話を聞きながら気になったのは、酪農・畜産の現場に人工知能を導入するにあたり、困難や課題はないのかという点だ。大和田氏は、「高齢化などにより従事者数や飼育されている頭数が減少傾向にある酪農・畜産業を支えるためには、自動化やスマート化が必須」と前置きしつつも、実際にAIを利活用するためには「いくつか課題がある」と話す。なかでも意外な盲点になっていると指摘するのが、「農場はインターネットにつながりにくい」という現状だ。

「日本において、牛が飼育されている酪農の現場のほとんどは中山間地。これは、においが発生するなどの条件が関係していますが、とにかく人里離れている場所が多いのです。そのため、インターネットにつながらない、もしくは仮につながったとしても接続が非常に不安定となる。この課題は、農業などともまた異なる酪農・畜産業に特有なものです」

センサーやカメラから大量のデータを取得したとしても、通信環境が盤石でなければクラウドや管制センターに安定的に送信することができない。つまり、“宝の持ち腐れ”となる。そのため大和田氏は、通信環境の限界を考慮した上で、他の技術で補っていく必要があるとも説く。

「農場の通信環境が大幅に改善するまではまだ時間がかかるでしょうから、カメラで取得したデータを端末内で処理できるエッジコンピューティングなどの技術を磨いていく必要があります。我々もすでに、通信環境が整っていない現場に対応した新しいカメラ端末の開発を始めています」