町工場と製造業を再構築するベンチャー・CADDi 加藤勇志郎氏インタビュー

ロボティア編集部2019年9月1日(日曜日)

浅草・隅田川付近の閑静な通りにあるキャディ(CADDi)のオフィス。製造業分野で高い注目を浴びるベンチャー企業の雰囲気は、他のそれとはどこか異なっていた。ベンチャー企業のオフィスと言えば整然としていて、ともすればどこか機械的な印象を受けることが多い。「イノベーション」や「テクノロジー」など、“オシャレ”なトレンドワードがそこら中から聞こえてきそうな雰囲気もある。

誤解して欲しくないのだが、キャディのオフィスがオシャレでないという話では決してない。人間くさいエネルギーが充満している――。立ち入った瞬間に、そんな熱気にあてられるのだ。この異質な雰囲気の理由は何か。同社代表取締役を務める加藤勇志郎氏に話を聞いた後、その疑問はすっと腑に落ちることになる。

高校生の頃、音楽の道に進もうと考えていた加藤氏は、家族の強い希望で大学進学を決意。高校3年生の6月から、決して得意ではなかった勉強に集中し、わずか6か月で東京大学に合格する。大学卒業後は、外資系コンサル大手マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社。重工業、大型輸送機器、建設機械、医療機器、消費財など大手メーカーの購買・調達をサポートする業務に従事した。その後、製造業の課題解決と可能性を追求するため、2017年末にキャディを創業している。

キャディは「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げ、製造業分野の改革を促進するサービスを打ち出している企業だ。2017年11月の設立からわずか1年半で、大手メーカー約60社を含む機械装置メーカーなど3,500社、町工場140社にまで取引実績を拡大している。現時点におけるメインサービスは、機械・装置の板金加工品の受発注を効率化するプラットフォームの開発・運営、また受発注のマッチングサービスだ。詳細は後述するが、製造業の現場には「相見積り」や「値下げ交渉」など、業界プレイヤーの誰もが得をしない受発注の古びた仕組みが根強く残っていた。そこで、キャディは業界に特化した知見とIT技術を組み合わせ、独自のソリューションを生み出した。
なぜ、製造業の受発注に目を向けたのか。加藤氏は、「日本の製造業には課題は数多くある」と前置きしつつ、まず全体的な構造について説明する。

「日本の製造業は、高度経済成長期を通じて、大量生産に合わせた大企業・下請け企業の密な生産体制を築くことで成長を遂げてきました。基本的な戦略としては大企業が“城下町”をつくり、そこで集中的に中小企業の生産体制の効率化や改善が行われていたのです。モノをつくれば売れる時代であれば、それでもよかったかもしれない。しかし多品種少量生産の時代には、その下請け構造がある一面で足かせになってきてしまっている」(加藤氏)

現在、多品種少量生産が必要な業界においては、大量生産時代と変わらず、町工場など小規模な企業が売上のほとんどを一部クライアントに依存する下請け構造が根強く残っているという。仮にクライアントが調達先を変える(=転注)と、町工場の財政は一気に悪化。倒産してしまうというケースも少なくない。一方、クライアントとなる産業機械のメーカー側は、多品種少量生産に対応するためにはさまざまな部品を調達しなければならないのだが、大量生産の下請け構造から脱せずにいる場合、付き合いのある限られた町工場に多くの部品をまとめて発注することになる。町工場としては、得意とする限定的な品目であれば高品質かつ低コストで請け負うことができるが、多品目となると質の低下や納期の遅れが避けられなくなる。そのため、発注元であるメーカー、受注先である町工場ともにコストが増加。価格交渉の末に、受注側が安い値段で無理な仕事を引き受けざるをえないといういびつな関係が生まれている。